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郡上の冬越えの祈り・馳走・暮らし REPORT | vol.14-1

〜旧正月を祝い・迎える 郡上藩江戸蔵屋敷の集大成〜

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「冬越えのなりわい」REPORT vol.14-2

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「冬越えの暮らしをうたう」REPORT vol.14-3


その寒さと雪から一年で最も厳しい暮らしとなる郡上の冬。その冬を越えるために必要なすべてのものを自然の恵みから自分たちで作り出していた美しく熱い知恵が、今も郡上には伝承されています。冬の文化こそ、郡上の人は愛し、大切にしてきたのでしょう。このたびは、旧正月となる1月25日に、冬を越えるための「祈り」「馳走」「暮らし」を、実際に体験、味わい、酔い、感じていただける内容をお届けしました!


◉ 冬越えの祈りをやわう 

〜旧暦・お歳とりとお正月を迎えるために〜


開場の時間となり、続々と受付に並び出す参加者のみなさま。お手製の門松が設えられた会場には、「今日はお正月なので」とお着物を召された方が見えはじめました。なんとも、華やか。



受付では、みなさんにお水を配りしました。これは「若水」といって、年が明けて最初に汲んだ清水のこと。昨日、郡上の石徹白という源流地域から汲んできた、正真正銘、郡上の若水です!小さな一杯でも、どこか清々しい気分になりませんか?


それではいよいよ蔵開きです。今回も井上さんの司会で進行します。




「郡上藩江戸蔵屋敷のモチーフとなっている江戸時代までは、現行の太陽暦ではなく、太陰太陽暦、いわゆる月暦で日本人は暮らしてきました。」

つまり、月の満ち欠けを一ヶ月とするサイクルの中で生きていたわけです。



「これはいわば生きとし生けるものが、12月31日(大晦日)から1月1日(朔日)にかけて、ともに一つ歳を取るというもの。つまり、個人の誕生会というものは存在せず、人間界ではこの月ごよみが12ターンする新月の夜に「歳神さま」を迎えることで、共同体の、生命界の誕生会を祝ったのです。」

この日は奇しくも、旧暦の元旦。私たちが郡上で出会った先人たちがどのように厳しい冬を越えてきたか、そこにどのような想いが込められていたかを知っていただき、郡上流の旧正月「お歳とり」を一緒に体験していただこうと思います。


それではまずは、お正月飾りを作るところから始めましょう!石徹白地区で今もなお細々と受け継がれている「やす」を作ってみたいと思います。





「やす」というのは、門松の脇に添える藁でつくった円錐型の入れ物で、年が明けてからご馳走をお供えする器です。石徹白であれば伝統食であるにしんずしやお餅、煮干しなどが入ることになります。


石徹白のおじいさんから作り方を習ってきた井上さんと益田さんが、みなさんのテーブルを回りながらお手伝いをしていきます。


「え!私たちも作るの?!」

「藁に触るの自体初めてなんですけど・・・」







と、初めは自信のなさそうな表情をされていた人たちも、やって見れば意外と簡単だったそうで、なんだか楽しそう。どんどん形作られていきます。


ちなみに、「やす」の完成形はこうなります。にしんずしやご飯を詰めて見てもらいました。これは門松と一緒に、この会場に飾っておきます。今回作った「やす」にご馳走を入れて飾った方はいらっしゃいますか?



◉ 冬越えの馳走

「やす」が完成したら、次に出てきてもらわなければならないのは、ご馳走です!今回の企画の大玉といっても過言はないでしょう。会場の脇では、今回の企画のために開発した「冬越えの馳走プレート」をスタッフたちが準備していました。





今回のランチプレートの内容は、石徹白に伝わる発酵食を中心に構成され、それに山の恵みである動物の肉や、川の恵みであるお魚のメニューが添えられています。



・にしんずし

・肉漬け(豚)

・肉漬け(鶏)

・鹿肉のハツとタンの紅白漬け

・熊汁


◆メインディッシュ(里の恵み)


にしんずしと肉漬けは、石徹白のおばあさんから教わったもの。標高750mに位置する石徹白は海からもとても遠く、魚や肉はとても貴重なものでした。福井の行商から買い付けたにしんを大根、人参、ご飯と米麹とともに発酵させ、冬の間に有難くいただいてきたそうです。雪に閉ざされるこの地域にとって保存食はまさに、冬を生き延びるためのものでした。


「肉漬け」は、生の肉を白菜と漬けたもの。石徹白に入ってきたのは60年ほど前と比較的新しいですが、隣の白鳥町や大野町にも伝わっていないこと、また、非売品であることも相まって「幻の発酵食」とも呼ばれています。今回は、鶏(かしわ)と豚の二種類の肉漬けを仕込んできました。


◆お結び(里の恵み)


上り人の田中さんが育てた岐阜のブランド米「ハツシモ」と、黒米を使用。霊峰白山の伏流水を汚さずに使おうと、自然栽培に取り組んでおられます。にしんずしのお米、麹ともに田中さんのお米で仕込みました。


◆鹿肉と熊肉(山の恵み)


上り人の安田さんと松川さんが捕ってきた肉。一つは鹿のタンとハツ。この部位は市場価格の低く、お肉屋さんでは売れないもので、猟から小屋に戻って簡単に調理して食べる“猟師飯”の定番。2人と同じ猪鹿庁のメンバーであり調理免許を持った佐藤郁さんも上京し、目出度い日に合わせた内臓を使用したお料理を考案、調理してくれました。熊肉は松川さんの担当。醤油ベースのシンプルな味付けながら驚くほどに臭みがなく、絶品でした。




会場のプロジェクターにはレシピを教えてくれたおばあちゃんの顔や、猟師の師匠の姿が映り、配膳係には生産者、猟師、調理担当の人たち。「いただきます」の瞬間、どのような気持ちだったのでしょうか?自然と目をつむる参加者の皆さまの姿がとても印象的でした。


「いただきます」





「ごちそうさまでした」

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